四月は忙しい。心を亡くすと書いて「忙」と読む。新しいことが諸所で始まる。初めが肝心という。心――気持ちを亡くさないように人に接しなければならないと思う。
昨年亡くなった音楽家のテレビ番組が放映されていた。私は彼の映画音楽くらいしか聴かないが、その元配偶者であるYさんのピアノ音楽はよく聴く(判りにくいですね。矢野顕子さんです)。彼は最期、病床で雨の降る音を聴いていたという。彼のスタジオの庭に置いたグランドピアノが雨に濡れている場面があった。ピアノが雨に濡れて良いのかと皆が思うのかもしれないが、彼は雨がピアノの屋根(グランドピアノの大きな天板を屋根と呼ぶらしい)を打つ音を聞きながら作曲をしていたのかなと思う。美しい、そういうイメージを売りにする音楽家であった。
この一年、諏訪で働くようになって車を運転する時間が増えた。毎日ではないが数時間続けて運転する。ラジオの電波の悪いところも走るから、その間は若い頃に好きで集めたCDをカーステレオ(!、と今も言うのか?)に録音して聴く。運転しながら聴くのは矢野顕子より宇多田ヒカルの方が良いような気がする。数十年ぶりに聴いたDate of birthに嵌りなおしたりした。Original Love(田島貴男)は相変わらずかっこいい。そういえば音楽は運転しながら聴くのが一番良いと言っていたのは細野晴臣だ。
仕事に来るとまた忙しい。週末に好きな音楽を聴いて一週間分の充電をする。もちろん沢山寝る。イチローや五郎丸歩に教わるまでもなく、routine――同じことの繰り返しは人の心を落ち着かせ集中させる。まるで儀式のような、そんなことをしながらまた月曜日からの仕事に戻る。